令和6年能登半島地震研究特設サイト

水中ドローンを用いた,富山湾南部における「海底地すべり」跡の直接観察 ~令和6年能登半島地震時の津波と漁業被害の実態解明を目指して~

2025.1.16

概要

富山大学が主導し,京都大学と金沢大学とが参画して富山湾南部において水中ドローンを用いた海底調査を行いました.本チームからはジェンキンズが参画しています.

この調査の結果,令和6年能登半島地震において,富山県南部域に予想よりも早く到達した津波の原因とみられる海底地すべりの痕跡を映像で捉えることに成功しました.

プレスリリース資料

本調査は富山大学主導で実施しています.プレスリリースは参画大学それぞれから出していますが,内容はほぼ同じです.

水中ドローンによる映像

協力会社のユウ・アクアライフ TOYAMA BAY Lab.さんが水中ドローン調査のダイジェスト動画を製作してくださいました.

水中ドローン映像のスクショ

以下に,上記水中ドローン映像から代表的なシーンをスクショし,簡単に解説します.

神通川河口沖の海底崖(令和6年能登半島地震による海底地すべりで生じたと思われる崖)

神通川河口沖の海底崖

崖面は付着生物や風化・浸食がほとんど見られずシャープである.後述の付着生物が多数生息する崖面と比較すると明らかに最近形成された崖面である.このことから,令和6年1月1日に生じた令和6年能登半島地震の地震動で生じた崖面であると判断した.

神通川河口沖の崩落ブロック

神通川河口沖の海底崖の麓.海底地すべりによる崩落ブロック

一つ上の写真で示した海底崖のふもとの緩斜面に散在する地層のブロック.割れ口が角張っており,ブロック上に被る堆積物(泥)も薄く,ごく最近の崩落で生じたことを物語っている.

庄川・小矢部川河口沖の海底崖(令和6年能登半島地震による海底地すべりで生じたと思われる崖)

庄川・小矢部川河口沖の海底崖

神通川河口沖以外でも,令和6年能登半島地震による海底地すべりは生じていた.これは庄川・小矢部川河口沖の海底崖である.神通川河口沖と同様,付着生物はなく,風化・浸食がほとんどなく,凸凹があまり見られないシャープな崖面である.

海底崖に見られた開口割れ目

写真の説明

地震動で地盤に割れが生じたが,崩落にはいたらなかったと思われる.今後の地震などにより崩落する可能性が高い.

昔の海底地すべり跡

昔の海底地すべりで生じた海底崖.崖面には多数の付着生物(二枚貝や棲管を持つゴカイ類など)が固着し,凸凹が目立つ(風化・浸食を受けている)

昔の海底地すべりで生じた海底崖.崖面には多数の付着生物(二枚貝や棲管を持つゴカイ類など)が固着し,凸凹が目立つ(風化・浸食を受けている).付着生物の大きさなどから少なくとも数年以上前に生じた崩落で形成された海底崖と判断される.

海底地すべりに起因する津波の危険性

海底地すべりは津波の発生原因の一つです.震源断層以外の多地点で,海底地すべり起源の津波が発生した可能性が高く,実際に富山県南部では,震源から離れているにも関わらず,地震発生から短時間(数分)で津波が襲来しました.

海底地すべり起源の津波は,津波ハザードマップや津波の到達時刻予想には反映されないことがほとんどです.その発生場所は,もしかすると家にほど近い沿岸の海底かもしれません.今回の我々の調査地点は,沿岸から数kmという非常に近い場所です.富山湾に限らず,日本近海ではどこでも海底地すべりが生じると思った方が良いです.

沿岸で地震を感じたら,たとえ震源が遠くても,近くでものの数分で到達する海底地すべり起源の津波が来るかもしれないと思って避難などをすべきと思います.

今後の展開

今回の水中ドローンを用いた調査によって,付着生物の有無や風化・浸食の程度から,海底崖の形成時期の新旧が判断できそうであることがわかった.

今後も富山大学,京都大学と協力して,海底地すべりの様態や起きた範囲,海底地すべりによって発生したであろう津波の規模推定,海底地すべりの起きる頻度,漁業への影響評価に向けた知見を積み重ねていきたい.

関連研究テーマ:海底地すべり
記:ロバート・ジェンキンズ